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燃え尽き脳神経内科医の備忘録・学習記録

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脳神経内科医によるブログです。自己学習として読んだ論文や、論文中で出た英単語を記録しています。

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10代発症の遺伝性失調症:症例提示/鑑別/診断|神経内科の論文学習

Posted on 2020年8月12日 By 雪むかえ 10代発症の遺伝性失調症:症例提示/鑑別/診断|神経内科の論文学習 へのコメントはまだありません
医学, 脳神経内科, 論文

久方ぶりのClinical Reasoningです.
やはりClinical Reasoningは非常にわくわくします.

こんな風に鑑別を進められたら,なんと良いことか…

 

今回は10代で発症した失調症です.
個人的には若年性の失調は成人例よりも診断が難しいように感じます(あまり若年例を診察することがないことも影響しているように思いますが).

本例は稀な疾患ではありますが,鑑別の進め方など,役立つエッセンスが多くありました.

 

  •  症例提示
  • 読んでみた感想

 

 症例提示

20歳 女性

【現病歴・家族歴】10歳頃から頻回に転倒していた.足趾にcavovarus foot(凹足)があり,両足の手術を施行された.感覚や視覚症状はない.

兄と双子の妹が同様の症状あり.両親とがいとこ婚.

【診察所見】滑動性眼球運動障害や,構音障害がある.両下肢に筋力低下あり.指鼻試験で失調がある.アキレス腱反射が消失.Babinski徴候は両側で伸展.足で振動覚と痛覚が低下

軽度のbroad-based歩行であるが,補助具なしで歩行可能.Romberg試験は陰性.
眼底検査は正常.

【血液検査】一般採血,金属,ビタミンA/E,自己免疫検査,感染症検査,フィタン酸,白血球ライソゾーム酵素などの検査は正常.

【神経生理学検査】脱髄型,運動感覚神経ニューロパチーが示唆された.

【MRI】小脳虫部上部の萎縮,脳梁の菲薄化,視床周囲のT2高信号,大きい橋,橋の線状T2低信号 などの所見を認めた.

f:id:yukimukae:20200810085905p:plain
画像所見:橋の線状T2低信号(左),大きい橋/小脳虫部上部の萎縮/脳梁の菲薄化(中),視床周囲のT2高信号(右)

【遺伝子検査】Friedreich失調症とSCAs(1,2,3,5,7,17)の遺伝子検査が行われたが,いずれも陰性.sacsin遺伝子にc.407_409 del CTCのhomozygous変異を認めた.

診断 ARSACS

 

考察

●ニューロパチーを伴う小脳失調

後天性を含めた種々の原因で生じうる.

後天性では慢性アルコール中毒,セリアック病,ビタミンB12欠乏症,ビタミンE欠乏症,傍腫瘍性神経症候群などがある.

遺伝性では,ニューロパチーに種類に応じてさらに分類される.

  • 失調症 +軸索型ニューロパチー
    Friedreich失調症,毛細血管拡張性運動失調症,AOA(ataxia with oculomotor apraxia),脆弱X症候群,無βリポ蛋白血症性白質脳症,ミトコンドリア病(例:感覚失調,構音障害,外眼筋麻痺),SCA types1,2,3,7,10,12,21,23,27,36など.
  • 失調症 +脱髄型ニューロパチー
    ARSACS,脳腱黄色腫症,Refsum病など.

●ARSACS診断に役立つ所見

  • MRIで橋の線状低信号
  • 網膜神経繊維層の肥厚(眼底検査や光干渉断層計OCTでみられうる).

●MRIの所見と失調症(下はその例)

  • hot cross bun sign(橋十字サイン) → MSA
  • 中小脳脚徴候 → FXATAS
  • 基底核高信号/皮質の拡散強調像異常 → プリオン病
  • 脳幹と小脳の周縁に高信号 → 脳表ヘモジデローシス

●失調症での遺伝子検査

遺伝形式を考えて検査を行う.

大雑把に言うと,20歳以前に発症の多くは劣性遺伝形式.25歳以上の発症は優性遺伝.伴性劣性遺伝は非常にまれである.

孤発例でも,de novo変異や浸透率の影響,父が違う,などの可能性がある.

遺伝性失調症の臨床像は非常にoverlapするため,panel-basedな遺伝子検査での診断が勧められる.

出身地域や臨床的特徴に応じた遺伝子検査も考慮(下はその例)

  • キューバ出身→SCA2
  • 網膜変性症での視力障害→SCA7)

●優性遺伝形式の失調症

panel-basedな遺伝子検査が勧められる.

筆者らはSCA1,2,3,6,7,17などの頻度の高いトリプレットリピート病をはじめに調べ,陰性の場合はNGSを検討する.

●劣性遺伝形式の失調症

生化学検査から行う(例:低ビタミンE血症→孤発性ビタミンE欠乏症).

臨床的/放射線検査的な特徴(下はその例)

  • 腱黄色腫→脳腱黄色腫症
  • 毛細血管拡張→毛細血管拡張性運動失調症
  • 橋の線状T2低信号→ARSACS)

最近では,RFC1遺伝子のトリプレットリピート延長は,孤発性Late-onset失調症の22%でみられるとの報告あり.

 

読んでみた感想

ARSACSは稀な疾患ですが,画像が特徴的なので手がかりになりやすいかと思います.実臨床ではMRIが行われて気づくかと思います.

遺伝性失調症では一般的な遺伝子検査が陰性の場合は,診断に悩むことが多いです.ニューロパチーの有無・種類,生化学的検査,眼科検査など,手がかりが得られることがあり,注意して診療に当たりたいです.

RFC1遺伝子異常は初めて知りました.下記のような報告があるようでした.本邦でまだ検査できないでしょうか…?

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

遺伝性失調症は遺伝形式,合併する所見,検査所見等が遺伝子検査を行う手がかりとなる.

 


 

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