燃え尽き脳神経内科医の備忘録・学習記録

脳神経内科医によるブログです。論文を独り抄読会として載せていきます。論文を読む際に調べた英単語も記録しています。よろしければ御覧ください。

Horner症候群に関する総説:局在|神経内科の論文学習

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Horner syndrome: clinical perspectives (Review)

 Eye Brain. 2015; 7: 35–46.
 DOI:https://dx.doi.org/10.2147%2FEB.S63633

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

Horner症候群:臨床的展望(総説)

 Horner症候群に関するレビュー論文です(2015年の論文なので少し前の論文です)

 本症は,(個人的には)あまり遭遇していません.しかし,片側眼瞼下垂があったり,片側顔面の発汗低下があったり,「これはホルネルで良いのか??」と迷うことが時々あり,復習も兼ねて読みました.

 長いので,前後半に分けて記載します.
 前半は主に解剖です.久しぶりに解剖の教科書を見てひたすら考えました(@_@;)

 日本語が怪しいかもしれないのでご注意ください.

 内容が非常に濃いため,自分なりに分かりやすいよう,段落分けや並び順変更しています.

 

Horner症候群

 眼球に向かう交感神経の障害
 縮瞳眼瞼下垂無汗症を呈する.

 

歴史

 1854年にフランスの生理学者であるClaude Bernardが動物での本症を初めて報告したことに始まる.その後,兵士が首の銃創後に本症を生じることも分かった.
 1869年にJohann Friedrich Horner(スイスの眼科医)が眼球の交感神経障害が原因であることを初めて報告した.

局在

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中枢性 (一次ニューロンの障害)

一次ニューロンの経路

 視床下部の後外側から始まり,脳幹の外側を通り,C8-T1の中間質外側部にある毛様体脊髄中枢とシナプス結合する.

中枢性Horner症候群の症状

 病変の同側に症状を生じる.ほぼ常に片側性で,しばしば片半身全体の発汗低下を生じる.

視床下部の障害

 腫瘍,出血などで障害され, 同側のHorner症候群を呈する.
 対側の片麻痺や感覚障害,垂直眼球運動障害,嚥下障害も伴うことがある.

中脳背側の病変

 片側Horner症候群に加えて,対側の滑車神経麻痺を生じることがある.(対側の滑車神経核,あるいは同側の滑車神経束の障害による)

橋病変

 同側の外転神経麻痺を生じる.(しかし,両側性外転神経麻痺も報告ある)

延髄外側

 延髄外側梗塞は,Horner症候群を含む複数の神経症候を呈する.Wallenberg症候群として認知されている.

 33例の延髄外側梗塞の報告では,91%でHorner症候群がみられ,85%で同側の失調が,同じく85%で対側の痛覚鈍麻がみられた.他にも,めまい,嚥下障害,含浸,顔面麻痺なども呈するがより頻度が少ない.Wallenberg症候群は同側の椎骨動脈の血栓閉塞で生じることが多いが,PICA梗塞でも生じる.

 130例の延髄外側梗塞の報告では,原因の50%主幹動脈の閉塞が,15%が動脈解離,13%が小血管梗塞,5%が心原性塞栓であった.

 脱髄疾患でのWallenberg症候群も報告されている.

下位頸髄や上位胸髄での病変

 外傷性,炎症性,感染性脊髄炎,血管奇形,脱髄,脊髄空洞症,腫瘍,梗塞などが原因となる.時に,Horner症候群が唯一の症候であることがある.

 外傷や椎間板ヘルニアなどによるBrown-Séquard症候群も,同側のHorner症候群を呈し,加えて,同側の触覚低下や運動障害,対側の温痛覚低下も伴う.

 頸髄病変では,交代性Horner症候群(左右が入れ替わるHorner症候群)を生じることがある.頸髄以外では全身性自律神経障害でも交代性Horner症候群を生じることがある.

節前性Horner症候群 (二次ニューロンの障害)

節前交感神経繊維の経路

 毛様体脊髄中枢から始まり,(交感神経幹を上行し),肺尖星状神経節を通過して,頚動脈鞘を通り,上頚神経節(総頚動脈分岐部や下顎角に位置)とシナプス結合する.

交感神経幹

 医原性に障害されやすい.放射線,心臓バイパス手術や肺・縦隔の手術,頸動脈手術,ペースメーカー挿入術,硬膜外麻酔,同側の胸腔ドレーン留置,内頸静脈カテーテル挿入,内頚動脈ステント留置などで等で医原性Horner症候群を生じる.

 交感神経幹の神経鞘腫や,神経外胚葉性腫瘍,迷走神経傍神経節腫,縦隔腫瘍・嚢胞なども原因となる.

肺尖部

 肺病変が胸郭出口に広がると,同側の肩痛,上腕から前腕内側,第4,5指の感覚障害,手の筋力低下・筋萎縮,節前性Horner症候群を呈する(Pancoast症候群).非小細胞性肺癌が最も多いが,形質細胞腫,非ホジキンリンパ腫,リンパ腫様肉芽腫症,癌転移なども原因となる.

 緑膿菌やブドウ球菌感染,結核,アスペルギルス,クリプトコッカスもPancoast症候群の原因となる.

その他

 腕神経叢障害や脊髄神経根障害,気胸,第一肋骨骨折,頸部血腫も外傷後の節前性Horner症候群の原因となる.

 

 節前性Horner症候群の28%で原因が分からない.

節後性Horner症候群 (三次ニューロンの障害)

三次ニューロンの経路

 上頚神経節から始まり,内頚動脈に沿って走行し,海綿静脈洞に達する.海綿静脈洞で一旦,外転神経と伴走し,その後Ⅴ1(眼神経)と伴走し,鼻毛様体神経に沿って眼窩に至る.鼻毛様体神経から,2本の長毛様体神経となり,眼球前方に到達して,瞳孔散大筋を支配する.

上頚神経節障害

 神経節は口蓋扁桃の1.5cm後方に位置しする.
 口腔内からの貫通性外傷や,扁桃摘出術,口腔内手術,扁桃周囲の注射などでも障害される.

内頚動脈病変

 片側頭部あるいは頸部の痛み,脳虚血症状,Horner症候群を呈する.

 この部位の病変では,縮瞳と眼瞼下垂を呈するが無汗症を伴わないため,"不全型Horner症候群"となることがある(内頸動脈神経叢は障害されるが,顔面の発汗に関与する外頸動脈神経叢が障害を免れるため,このような症候を呈する)

 有痛性のHorner症候群は,外傷性や特発性内頚動脈解離で生じる.

 内頚動脈解離146例の検討では,Horner症候群が最も多い症候で,半数では唯一の初期症状であった.

 動脈解離以外の内頚動脈病変としては,動脈瘤,高度な動脈硬化,急性血栓形成,線維筋異形成,Ehler–Danlos症候群,Marfan症候群,動脈炎などが原因となる.その他にも,腫瘍,炎症,リンパ節腫大,頸部占拠性病変などで頸部交感神経を圧迫し,Horner症候群を呈する.

 

頭蓋底病変

 通常,節後性Horner症候群に加え,種々の脳神経麻痺を伴う.

 中頭蓋窩からMeckel洞に広がり,破裂孔で内頚動脈に達する中頭蓋窩病変,三叉神経障害(疼痛,感覚低下)とHorner症候群を呈する.

 頭蓋底骨折(錐体骨など)では,同側のHorner症候群,外転神経麻痺,顔面麻痺,感音性難聴を呈する.

 海綿静脈洞内の病変では,Horner症候群に,他の眼球運動神経麻痺を伴う.

 海綿静脈洞後方の病変では,外転神経麻痺と節後性Horner症候群の合併を生じる.

 群発頭痛では,同側の流涙,鼻閉,結膜充血,眼瞼下垂を伴う.一過性の節後性Horner症候群は5-22%で生じ,発作を繰り返していくうちに,永続性の眼球交感神経麻を生じた症例が幾つか報告されている.

 Raeder傍三叉神経痛は有痛性のHorner症候群で,同側の三叉神経痛を伴い,三叉神経内側の中頭蓋窩の病変が関与する.

 

一次・二次・三次ニューロン障害の頻度

 450例のHorner症候群の報告では,270例(65%)が何らかの原因を認めた.
 原因が分かる症例のうち,13%が中枢神経(一次ニューロン)の障害で,44%が節前性(二次ニューロン)の障害で,43%が,節後性(三次ニューロン)の障害であった.