燃え尽き脳神経内科医の備忘録・学習記録

脳神経内科医によるブログです。論文を独り抄読会として載せていきます。論文を読む際に調べた英単語も記録しています。よろしければ御覧ください。

Niemann-Pick病C型における近年での診断と治療 |神経内科の論文学習

f:id:yukimukae:20190806163355p:plain

Niemann-Pick type C: contemporary diagnosis and treatment of a classical disorder

 Pract Neurol 2019;0:1–4.
 DOI :10.1136/practneurol-2019-002236

pn.bmj.com


Niemann-Pick病 C型:古典的な疾患における 近年の診断と治療

 Niemann-Pick病 C型は若年発症の神経症状で鑑別に挙げることはありますが,症候や診断について学習不足だったので今回読んでみました.

 上記のBMJのページでは,症例の動画を観ることができ,歩行の様子や眼球運動障害,ジストニア動画が載っています.参考になります.

 ※本邦で記載されている検査(オキシステロールなど)は国内では保険収載されていないのでご留意ください.

 

症例提示

症例:29歳 女性

[家族歴] 

 神経疾患の家族歴なし.父とは父が30代半ば頃から会っていない.

[出生・成長発達] 

 周産期に異常はなく,成長発達も問題なし.普通学校に通った.乗馬競技にも参加した.

[現病歴]

 中等学校の時に脳性麻痺と指摘された.補習授業が必要になった.集中力や運動能力に問題が生じた.下方の物を見る場合,頭を下げたり,目の高さまで持ち上げる必要があった.立つのが不安定になったが,介助は不要であった.

 15歳の時,施設に移り,思春期向けの生活技能訓練を受けた.読み書きができ,店員として働き始めた.

 数年後に,口や顔面,上下肢にそわそわした動きが出現した.強剛や感覚障害,膀胱直腸障害はなかった.転倒するようになった.徐々に歩行不安定となり,母の介助が必要になった.会話能力は退行し,文の会話から,数語しか話せなくなった

 22歳の時,夜間に強直間代発作がみられた.毎月,発作が群発し,当初はバルプロ酸で加療したが,認知機能や平衡感覚障害が悪化した.レベチラセタムに変更し,2年間 発作寛解となった.同時期から,笑った際に首が下がり,数秒で改善する様子がみられた.発作の治療でこの首下がりも改善した.日中の眠気はなく,夜驚症,睡眠麻痺はなかった.

 28歳から嚥下障害も生じ,柔らかい食事にした.気分は安定し,抑うつなどの症状はなかった.

 29歳 進行性の症状について紹介となった.

[診察所見(29歳時)]

 意識は清明で,左右非対称な顔の動きと,顔面上下肢の不随意運動を認めた.発語は緩慢であった.歩行非常に不安定であり,2人の介助が必要.上下肢でジストニア肢位もみられた.

 核上性垂直注視麻痺を認めるが,水平眼球運動はfullであった.水平方向の追視や注視は緩慢.

 痙性はなく,腱反射は正常で,足底反射は屈曲.

 Addenbrookes Cognitive Examination 24/100(注意6/18,記憶2/26,流暢性2/14

言語10/26,視空間4/16).

(BMJのページで,歩行,眼球運動,上肢ジストニアの診察所見を観ることができる)

[検査所見]

 血液検査:軽度の鉄欠乏性貧血はあるが,肝腎機能や甲状腺,CRP,赤沈,抗核抗体,免疫グロブリン,蛋白電気泳動に異常はない.HIV,梅毒は陰性.有棘赤血球は認めない.血清セルロプラスミン,アミノ酸,極長鎖脂肪酸,尿アシルカルニチン分画,有機酸に異常はない.

 MRI:7年の経過で小脳と脳梁が進行性に萎縮した.

 髄液検査:細胞数,蛋白,糖は正常.Tropheryma whippleiのDNA PCRは陰性.

 脳波検査(29歳時):側頭部にspikeを伴うslow transientsを認めるが,てんかん波は認めない.

 血清オキシステロール:61.5ng/mL (正常値 : 9.6~37)

鑑別疾患

 本例は思春期から10年以上かけて進行する神経症状で,てんかんや認知障害,カタプレキシー,核上性垂直眼球運動麻痺,嚥下障害,失調,ジストニアを伴った.症状から,小脳や基底核,大脳,脳幹の障害が示唆される.症候から,Niemann-Pick病C型が考えられる.

(本症例について,文献中では最終的な診断名は記載されていなかった.NPC1,2の遺伝子検査についても記載がない.しかし,内容的にNPC typeCの症例であったと思われる)

 

以下,鑑別として考えられた疾患

 錐体外路障害を伴う運動失調の鑑別疾患は,SCA2型,3型,17型,毛細血管拡張性運動失調症,神経有棘赤血球症などを考える.

 認知機能障害,小脳障害,錐体外路症状からは,ハンチントン病,DRPLAも考えた.しかし,垂直眼球運動障害は典型的ではない.

 ジストニアや痙攣から,グルコーストランスポーター1欠損症を考えるが,通常は4歳以下で欠神発作を生じ,髄液糖正常であることは非典型的な所見である.

 Wilson病は 失調やジストニア,垂直眼球運動障害など様々な神経症候を呈する.本例はKayser-Fleischer ringsはなかった.

 Whipple病も 眼球運動障害や不随意運動を呈しうる.本例は消化器症状や髄液PCRは陰性であった.

 Gaucher病A型は種々の神経症状を呈するが,早期から核上性の水平眼球運動障害を生じる.

考察

Niemann-Pick病C型について

 スフィンゴ糖脂質の蓄積が生じるライソゾーム病.

 エクソン解析では,既存の原因遺伝子変異は1:19000-36000でみられるとされる.

 急速進行例から成人発症緩徐進行例まである.70代まで生存することがある.
 早期発症型では,胆汁うっ滞性黄疸,肝脾腫,急性肝不全を呈するが,遅発型ではこれらの特徴はない.

 笑った時に引き起こされる全身の脱力(Gelastic cataplexy)は早期発症型でより多い.
 核上性垂直眼球運動(初期から下方向の注視麻痺)は共通した特徴である.
 脳MRIでは,症脳萎縮や脳梁萎縮などがみられる.

オキシステロールの診断的役割

 培養皮膚線維芽細胞のコレステロールエステルの検査や,フィリピン染色で診断がされてきた.最近ではNPC1やNPC2などの遺伝子検査が行われるようになった(本症の10%では1つの変異しかみられない.意義が判明していない新しい変異が見られることもある)

 血清オキシステロールは第一選択の検査として行われ,陽性適中率は>97%とされる.他の代謝性疾患でも上昇しうる(スフィンゴミエリナーゼ欠損症,酸リパーゼ欠損症,脳腱黄色腫症など).しかし,臨床症状とオキシステロール上昇は診断に役立つ.

 

Key points

  • 脳性麻痺では症状が固定する.進行性の脳性麻痺は再評価する必要がある.
  • Niemann-Pick病C型は各錠性垂直眼球運動麻痺や進行性不随意運動を呈する.
  • 本症の多くはカタプレキシーを伴う.
  • 血清オキシステロールは早期診断に役立つ.