燃え尽き脳神経内科医の備忘録・学習記録

脳神経内科医によるブログです。論文を独り抄読会として載せていきます。論文を読む際に調べた英単語も記録しています。よろしければ御覧ください。

稀な原因による治療可能なパーキンソニズム|BMJ Pract Neurol

 


[A difficult case] Unusual cause of treatable Parkinsonism

 Pract Neurol. 2019 Dec;19(6):518-520.
 PMID: 31534024
 doi: 10.1136/practneurol-2019-002225. 


 pn.bmj.com

 


 

症例提示

78歳 女性

現病歴

 12ヶ月前から躓きや震え小声上肢に振戦などがみられた.
 今回,転倒で入院した.

既往歴

 Crohn病の既往があるが,何年も再燃なし.

診察所見

 左上肢に安静時振戦固縮動作緩慢があり歩幅減少を認めた.

検査所見

 CT:硬膜下fluidは認めなかったが頭頂後頭葉皮質にわずかな高信号を認めた.

 MRI慢性静脈洞血栓を認め,二次的な硬膜動静脈瘻を認めた.右基底核と後頭葉に高信号を認めた.

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初期診断と治療

 ワーファリンとレボドパが開始された.レボドパ開始後は症状が軽度改善した.

 尿失禁と便失禁もあった.泣いたと思ったら笑うなど,情緒不安定であった.記憶障害もあり,特に短期記憶障害がみられた.

 行動障害や性格変化は認めず,視覚障害はなかった.

 軽度小声で,嚥下障害の自覚があった.左有意のパーキンソニズムがあり,歩行は前傾姿勢で.手の振りは両側で低下していた.表情は乏しいが,眼球運動障害はない.小脳兆候や錐体路兆候はない.

 早期の認知機能障害や括約筋障害とレボドパへの反応性欠如は,特発性パーキンソン病のRed flagsである.

 MRIでの信号変化の部位を考慮して,本例のパーキンソニズムはパーキンソン病より,動静脈瘻による変化が原因であると考えられた.

 血管造影を施行した.硬膜動静脈瘻は,右後大脳動脈から還流を受け,深静脈系(直静脈洞,内大脳静脈.Rosenthal静脈)に流出していた.

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 DaTスキャンは正常であった.

その後の経過

 静脈洞血栓症の治療としてワーファリン6ヶ月内服した.

 二期的に硬膜動静脈瘻の塞栓術を行った.初回の塞栓術の前に,ドパミン製剤は中止したが,症状悪化はなかった.

 塞栓術後,数日以内に振戦や小声,嚥下障害が改善した.膀胱直腸症状は残存した.

 塞栓術3ヶ月後の血管造影では,動静脈瘻の閉塞を確認した.4ヶ月後のMRIでは,大脳半球や右被殻の異常信号の改善を認めた. 

 6ヶ月後,両側性,左優位の非対称性固縮はいくらかあったが,確実に改善していた.歩行と仮面様顔貌は改善した.

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 塞栓術後9ヶ月まで認知機能や歩行,振戦の改善が続いた.

 塞栓術前はHoehn-Yahr3であったが,治療後は2まで改善した.軽度のパーキンソニズムと,膀胱症状は残存した.基底核領域でのback pressureの上昇,還流低下が原因と思われた.

文献~まとめ

 硬膜動静脈瘻では視覚障害,頭痛,耳鳴りなどの症状が多い(本例ではそれらは認めなかった).血管雑音が聴取されるうっ血乳頭もみられる事がある.

 硬膜動静脈瘻は,硬膜動脈が硬膜静脈あるいは静脈洞につながる状態で,硬膜のいずれの部位でも生じうる.

 Cognard分類は部位,血流方向性,皮質静脈還流の有無,静脈拡張の有無に応じで分類される.Ⅰ,Ⅱあは予後良好(出血リスクが少ない),Ⅱb-Ⅳは進行性である.Ⅴは脊髄症を生じる.進行性病変の場合は,年間死亡率10%となる

文献

 既報告でも,左右非対称性で,時に両側性のパーキンソニズムを生じることが報告されている.機序としては,深内静脈の逆流が基底核の機能を妨げると考えられる.

 そのような症例では,アパシーや自発性低下,認知機能低下などがみられる.

 頭痛や,視覚障害,腱反射亢進,うっ血乳頭,後頭部血管雑音などの所見も硬膜動静脈瘻を示唆する所見となる.MRIでは,白質の信号変化を認め,時にCTで血管拡張がみられる.

ポイント

  • 硬膜動静脈瘻では,まれにパーキンソニズムを生じることがある.
  • 非定形パーキンソニズムを示唆するRed flagsとして,早期の認知機能障害,球症状,失禁などがある.

感想

 神経内科にとってパーキンソニズムはCommonな症状ではありますが,その確定診断に悩むことも珍しくはないと思います.

 このような機序でパーキンソニズムが生じることは初めて知りました(基底核が障害されるから,錐体外路徴候を呈するのは当たり前といえばそうかもしれませんが)

 稀な症例ではあると思いますが,症状や経過からRed flagsを捕まえ,画像所見を見逃さず精査することが重要と思いました.

 診断に際して,常にRed flagsは思い出すように心がけたいと思います.

 


 

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