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燃え尽き脳神経内科医の備忘録・学習記録

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頭痛で発症し, うっ血乳頭を認めた症例

Posted on 2020年10月28日2021年5月7日 By 雪むかえ 頭痛で発症し, うっ血乳頭を認めた症例 への1件のコメント
医学, 脳神経内科, 論文

最終更新 2020年10月28日

 今回はBMJ Test yourselfより,うっ血乳頭の症例です.頭蓋内圧亢進ということはすぐに分かりましたが,原因検索の仕方は勉強になりました.

目次

  • 1 今回の文献
    • 1.1 症例提示
    • 1.2 鑑別診断は?
    • 1.3 本例をどのように診療するか?
    • 1.4 どのような治療が勧められるか?
    • 1.5 本例ではHSV2は原因であるのか単に併存しただけなのか?
    • 1.6 考察
  • 2 文献を読んだ感想
  • 3 さらに追加で調べた内容
    • 3.1 Modified Dandy Criteria
    • 3.2 関連

今回の文献

pn.bmj.com

症例提示

45歳 男性,ヨルダン出身.

2週間前に軽度の痛みを伴う口腔内潰瘍があった.同時期から,徐々に後頭部痛で,拍動性の耳鳴り,首こり,視力障害が生じた.
頭痛は,咳やくしゃみ,前屈で増悪する.
皮疹や虫刺され,動物咬傷の先行はなく,前年は他国への旅行やリスキーな性的接触,膠原病症状,B症状はなかった.

[生活歴]
イギリスに10年以上住み、滅多にヨルダンに訪れない.

[既往歴]
緊張型頭痛.
26年前に,誘因なく深部静脈血栓症を生じた.

[内服薬]
amitriptine, meberine, laonsoprazole, ranitidine.市販薬,サプリメントは服用していない.

[診察所見]
口腔内は陰部に潰瘍は認めなかった.
視力,色覚,眼球運動は正常でったが,両側のうっ血乳頭を認め,視野検査でマ盲点拡大を認めた.光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)では,右優位に視神経線維層の肥厚を認めた.
他の神経所見,バイタルサイン,ルーチンの血液検査は正常.

[頭部CT検査]
両側視神経の蛇行と empty sellaを認め,頭蓋内圧亢進が示唆された.

鑑別診断は?

特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)と,二次性の頭蓋内圧亢進症が鑑別となる.

本例は男性で,BMIも正常であることから,IIHとしては非典型的である.二次性頭蓋内圧亢進症が疑われる.

下記表が二次性頭蓋内圧亢進症の鑑別疾患であるが.本例は限られた情報や症状しかなく,診断は難しい.

細菌感染機序では通常の細菌感染は記載されていないことに注意(一般的に細菌性髄膜炎脳炎は頭蓋内圧亢進するため)
表で二次性の頭蓋内圧亢進症の原因疾患(文献内は一部誤りあり修正(麻疹がbacterialのグループで記載されていたが,virusなので修正))

本例をどのように診療するか?

頭部MRI(venographyを含む)で,CTでの所見を確認し,脳静脈洞血栓症を除外した.

A:視神経の蛇行,B:Meckel洞の拡張,C:empty sella,D:脳静脈洞血栓症を認めない(venography)

髄液検査を追加した.

[髄液検査]
初圧 31 cmH2O.正常は12〜25.
髄液白血球数 215/mm^3(正常≦5,リンパ球100%),蛋白0.93 g/L(正常0.15~0.45),糖4.0mmol/L(血漿6.1),単純ヘルペス2型(HSV-2)PCR検査が陽性であった.髄液の抗酸菌培養と細胞診は陰性であった.

髄液ドレナージを行うことで,症状が急速かつ完全に改善した.

[血液検査,感染症検査,その他の検査]
免疫不全スクリーニング検査(先天性にHSV2などに易感染性であることを疑って検査)では,正常あるいは陰性であった.
HbA1c,血清免疫グロブリン,補体,HIV検査,血清蛋白電気泳動,血清軽鎖,BJ蛋白,膠原病検査/感染症検査(Sjogren症候群抗体,ライム病,梅毒,トキソプラズマ,EBウイルス,サイトメガロウイルス,パルボウイルスB19の血清検査)などは正常あるいは陰性であった.

胸部/腹部/骨盤CTはリンパ腫やサルコイドーシスなどを検索したが,異常なし.

 ヨルダン出身であること,深部静脈血栓の既往があること,口内炎が先行したことなどから,神経ベーチェット病を疑われた.
 HLA-B51が陽性であったが,網膜フルオレセイン血管撮影での網膜血管炎の所見は陰性で,神経ベーチェットらしくなかった.

どのような治療が勧められるか?

 HSV2によるうっ血乳頭の報告はないものの,ウイルス性の中枢神経感染は頭蓋内圧亢進に関連することがよく知られている.

 本例では,HSV2が原因であると仮定して,アシクロビルの経静脈的投与を開始した.

 2週後に髄液検査を再検したところ,初圧と髄液所見の改善を認めた.髄液HSV2 PCRは陰性であった.アシクロビルを中止し,アセタゾラミド250mg1日2回投与を開始した.頭痛が持続したため,アセタゾラミド500mg1日2回へ増量した.(※本邦では,アセタゾラミドは頭蓋内圧亢進症にたいする適応なし)

 退院の時には,頭痛は軽度まで改善したが,視力は正常であった.
 3ヶ月後に髄液検査を再度行ったが,髄液異常は完全に改善していた.アセタゾラミドを中止した.頭痛は消失し,うっ血乳頭も改善した.

本例ではHSV2は原因であるのか単に併存しただけなのか?

 HSV2による髄膜炎や他の重度の神経合併症は,陰部皮膚粘膜症状を伴わず発症することがある(文献3).

 口唇ヘルペスは85~90%がHSV1感染による.しかし,HSV2感染も同時に生じることがあり,原因が明らかでないことがある.

[HSV急性感染について]
 HSVの種類特異的なIgG/IgM血清検査は,初期にIgMが陽性で,回復期にIgGへ セロコンバージョンする.セロコンバージョンを認めた場合,HSV2の急性感染であることが示唆される.また,髄液中のHSV特異的抗体は時間をかけて上昇し,HSV2の中枢感染をさらに支持する.

[HSV2による頭蓋内圧亢進]
 HSV2感染による非水頭症合併IIHの画像的特徴はこれまで報告がない.

 IIHの画像所見は,通常時間をかけて生じる.Meckel洞(頭蓋底から三叉神経が通過する硬膜の出口)は頭蓋内圧亢進により時間をかけて両側拡張するが,IIHの兆候かどうかは確立されていない.

 他の神経所見として,本例ではempty sellaを認めたが,これは健常人でも30%でみられる.IIHの画像検査に関する最近のシステマティックレビューでは,最も感度と特異度が高いのは,横静脈洞狭窄であったが,本例では認めなかった.

[本例での頭蓋内圧亢進について]
 本例では,IIHとしては非典型的であり,二次性の頭蓋内圧亢進が疑われた.
 IIHは圧倒的に女性優位である.本例は男性でBMIも正常であるため,本例はIIHが非典型的である.
 肥満とIIHの関連性を示唆する報告がある.11 β-hydroxysteroid dehy- drogenase type 1(脈絡叢で必要な酵素)が抑制されることが関連していると考えられている(本例は肥満ではない).
 さらに,modified Dandy criteriaでのIIH診断に必要なのは,正常な髄液組成と他の頭蓋内圧を生じる疾患の除外が必要である(本例は異常な髄液所見を認めた).

 全体として,本例は髄液所見からIIHらしくない.

 本例は,臨床症状や所見から,頭蓋内圧亢進性が考えられ,髄液からHSV2 DNAを検出した.本例で口腔内潰瘍の原因を特定できなかったが,臨床的にHSV2感染が原因と考えられる.

 アシクロビル投与後の間欠的な髄液検査で髄液所見の改善を認め,臨床症状の改善も認めた.

 興味深いことに,本例で,2年前に撮影された頭部CTでは,IIHの所見は認めなかった.このことからも最近のHSV2感染での神経症状と考えられた.

 HSV2髄膜炎は陰部潰瘍と関連して生じることは稀で,非特異的な頭痛を生じ,古典的な髄膜炎の特徴を伴わないこともある(光過敏47%,熱45%,髄膜刺激兆候44%)
 HSV2は非陰部感染を合併すると重度の神経症状を呈する.

考察

 HSV2はヒトヘルペスウイルスの8つのサブタイプの1つである.

 成人の免疫正常の人では,初感染はしばしば無症候性となる.末梢感覚神経の神経節に終生潜在する.

 神経学的には,HSV2は神経軸索全体を障害しうるが,典型的には髄膜炎を生じる.

 ウイルスは通常,初圧上昇の原因になるが,うっ血乳頭を生じることは稀である.頭蓋内圧上昇は,BBB機能障害や髄液中の細胞数上昇や蛋白上昇で二次的炎症惹起によるくも膜下流での再吸収障害が原因と考えられる.

 頭蓋内圧の一過性の上昇は,ジフテリア/破傷風/百日咳,ポリオ,ジフテリアの予防接種で生じることがわかっている.
 さらに,スピロヘータ感染時のJarisch–Herxheimer反応も頭蓋内圧の上昇を生じる(TNFαのや炎症惹起性サイトカインが上昇して髄液の流れが阻害され,頭蓋内圧の一過性上昇を生じると考えられてる).

 本例は,HSV2髄膜炎で,一過性の頭蓋内圧亢進,うっ血乳頭を生じた.神経画像での限界と,特定の人でのIIHの希少性を認識することで,さらなる検査を行うことができる.

 (文献より引用)

文献を読んだ感想

稀な二次性頭蓋内圧亢進症と思いました.髄液検査は髄膜炎の所見で良いのでしょうが,感染精査としてHSV2を含めて検査できるかどうか…自信がないところです.

陰部潰瘍など典型的な症状があれば手がかりとなるのでしょうが,陰部潰瘍を認めないことも稀ではないようですね.非常にやっかいです.

本例の経過は亜急性の経過であり,HSV1脳炎より比較的ゆっくりな経過と感じました.HSV2髄膜炎は比較的ゆっくりなのでしょうか…少し疑問でした.

保険診療上,HSV2-PCRは難しいのですが,実臨床ではまず血清検査(HSV2 IgG/IgM)を行うようにするのが良いのかなと思いました.

さらに追加で調べた内容

Modified Dandy Criteria

特発性頭蓋内圧亢進症の診断基準です.

1. 頭蓋内圧亢進の症状と兆候
2. 神経巣症状がない
3. 脳室系の閉塞起点がないが,脳脊髄圧が上昇している(>200mmH2O).
4. 覚醒,意識清明.
5. 他の原因による頭蓋内圧上昇を除外する.*初圧200~250mmH2Oの症例は,下記の1項目以上を満たす必要がある.
・拍動性耳鳴り
・外転神経麻痺(Ⅵ脳神経麻痺)
・Frisen Grade IIのうっ血乳頭
・超音波で視神経乳頭ドルーゼン陰性で,うっ血乳頭と類似する視神経乳頭のアノマリーを認めない.

・MRV(ATECO technique)で
横静脈洞の虚脱/狭窄を認める
・T2強調画像の冠状断あるいは矢状断で部分的なempty sellaを認め,大脳半球に隣接した視神経鞘が髄液で満たされているのをT2水平断で認める.

n.neurology.org

関連

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